トゥラリカ / 『黄金の靴』

3月 26, 2016

トゥラリカ / 黄金の靴
曲目
1. デザイン
2. 体感できない平坦さ
3. ホバリング
4. 粒子衝突
5. ネオンの帳
6. 競り
7. 黄金の靴

横山 匠(声、ギター)
大西 一輝(ベース)
泉 陽介(ドラム、ピアノ)
tr1、2、3、5、7<作詞/作曲>横山匠 <編曲>トゥラリカ
tr4、6 大西一輝

録音:松石ゲル(PANICSMILE、ザ・シロップ他)
ミックス:松石ゲル、横山匠
マスタリング:門垣良則(MORG)
アートワーク:東条香澄

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発売日:2016/04/08
価格:1500
品番 ICCL-022
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トゥラリカプロフィール
・2008年結成。名古屋を中心に活動する横山匠(Vo,Gt 現在はthe act we actのGtとしても活動)、大西一輝(Ba)、泉陽介(Dr,Key)の3ピースバンド。2010年にEP「無垢な藻類」、2012年1stアルバム「苔の祭典」を発売。2ndとなる今回の「黄金の靴」も含め、全てiscollagecollectiveから。「苔の祭典」は仏・白のモンド音楽を扱うレーベルSante Loisirsからカセットとしても発売された。

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私事で恐縮ですが、僕は曲を考える際に余りに考え過ぎて、音が鳴っているのか鳴っていないかすら区別出来なくなってしまうときがあります。
謂わば、音楽自体がゲシュタルト崩壊してしまったような状態です。
そうなると完全に手詰まりになって考えるのを止めざるを得なくなるのですが、トゥラリカはむしろそんなゲシュタルト崩壊した状態のまま更に突き詰めて、崩壊したままでもう一度ギリギリで音楽として浮かび上がらせる、そんな凄まじいことを成し遂げているような気がします。世界でも類を見ない不可思議なアンサンブル。わらべ歌のようでいてどこかおどろおどろしい歌。
音楽が音楽足り得るギリギリのラインでステップを踏み続ける実験性と絶妙なポップネス。音の欠片がせめぎ合い聴き手の想像力が広がっていく。

僕らが名古屋のKDハポンに呼んでもらったときだったでしょうか。この日のトゥラリカのライブの最後の曲は、今回の新作の一曲目「デザイン」でした。
それまで不条理極まりないドラムを飄々と叩いていた泉君が、おもむろに立ち上がりステージ横にあったピアノの前へ。
イントロの短いピアノのパッセージに続いて、匠君がカウンターテナーで歌い出し大西君のベースがユニゾンしたその瞬間、僕は物凄い衝撃を受けたのです。
折り重なる荘厳なピアノとどこか祈りのような歌を呆然と聴きながら、トゥラリカが世界的に見てもエッジーなバンドの一つであることを確信した瞬間でした。

トゥラリカの大きな特徴である執拗なまでにズラされたアンサンブルとブツ切りに寸断されたフレーズ、そして各々が自立して存在しているかのような音の欠片。
それがパラレルに展開していくトゥラリカの楽曲を聴くこととは、例えばまるで互いに関連のない映像や絵画をいくつも同時に眺めているような感覚に近いのかもしれません。

それがある瞬間に突然シンクロして一瞬だけ鮮明な景色が浮かび上がる。それはまさに最もスリリングな瞬間でありトゥラリカのソングライティングの巧みさに驚かされる瞬間でもあります。
僕らはその一瞬の閃きのような景色を手掛かりに、バラバラのアンサンブルを聴きながら想像を巡らせるのです。
まるで関連のなかったはずの風景が、実はある別のものの暗喩やアンチテーゼのように感じられたり、或いは騙し絵のようにまた全く別の風景が浮かび上がってきたり。時間軸の概念がいつの間に取っ払われ、全ての要素がウネウネと有機的に絡み合い始める。
そう、実はトゥラリカのアンサンブルを成立させているのは僕らの想像力なのかもしれません。

せめぎ合う音の欠片を聴きながら、自然と浮かび上がってくる新たな音。それはもしかしたら本当は鳴っていないのかもしれない。聴く人の想像力を喚起し無音をこそ鳴らす。それこそがトゥラリカの凄さのように僕は思います。

ドラムすら失ってしまった「デザイン」は、更に大きな想像力を喚起することに成功しているように思えます。というか、その為にドラムですら躊躇なく当然のようにオミットする俎上に乗せてしまうトゥラリカのクリエイティヴィティに感服せざるを得ません。

そして、今回の新譜のタイトル曲でありラストを飾る「黄金の靴」がまた素晴らしい。
別の時間軸とレイヤーで蠢く各々の楽器と歌、突然表れる空気を引き裂くようなハイハットの刻み。なのに中間部の一聴するとインタープレイのようなパートではほぼ傍観を貫く。
僕はむしろこれによって例えばオーネットコールマンのダブルカルテットばりの嵐のようなグルーヴのウネりが曲全体を通して聴こえてくるように感じるのです。

或いは、フリージャズさながらの奔放な音のやり取りが刺激的な「ホバリング」においては、逆にそれらが実は細部まで周到に組み上げられていることに気付かされます。トゥラリカのソングライティングの確かさやアレンジのキレに改めて驚かされました。
ほんの一瞬、バラバラだったレイヤーがいつの間にか重なり合って、まるで滲みのように浮き上がってくる歌。それはもはや実際に歌っているというよりも聴いている僕らの頭の中にいつの間にか鳴り出したメロディのよう。
2分にも満たない曲ですが、トゥラリカの魅力が凝縮されていると言って良いかもしれません。

リズミカルな五拍子のベースラインが楽しい「体感できない平坦さ」はこのアルバムで最もポップな曲。唐突なシャウト、ライトハンド奏法まで繰り出される気ままなギター、盛り上がりそうで尻すぼみで終わってしまうもどかしさ、などなどトリックとフックに溢れた逸品です。

「ネオンの帳」は1stEPからの再録とのこと。僕はその1stEP自体は未聴ですが、その当時からこのクオリティか!と驚かされました。
洞窟の中のようなくぐもった密やかなムードから、いつになくエモーショナルな歌を経てギターソロへ移り変わる瞬間がスリリング。親友からのリクエストにより再録とのことですが、僕も大好きな曲です。

インタールードと呼ぶにはあまりに刺激の強過ぎる「粒子衝突」「競り」を含め全7曲。
22分余りですが、トゥラリカの新作「黄金の靴」は、聴くほどに新たな発見と驚きに満ち溢れた素晴らしい作品です。何が最高って、ともすると難解でアート寄りに捉えられる音楽を、まだ20代半ばの下衆(笑)な男三人がゲラゲラと笑いながら飄々とやっているということ。
トゥラリカの自由さと独特のポップネスというのは、案外そういうところから来ているのかもしれません。

その辺も含めて、もっとより多くの人に聴かれるべき音楽だと思います。奔放で緻密な音のやり取りに身を任せ、自由に想像を広げてもらえれば、これまで聴こえてこなかった音楽、見えなかった風景に出会えるはずです。

清田 (Doit Science)

発売に先がけ、3月26日(土曜日)夕刻~4月2日夕刻(土曜日)まで、全曲試聴を開始いたします。

アルバム制作後の動きとしてモジュラーシンセを使用した新曲「マチネー」がサウンドクラウドにアップされました。

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